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アパートの鍵貸します(1960) [映画]

年末に借りて里帰りしたら
偶然、年末の物語だった
ストーリー、脚本、俳優、芝居、音楽、演出
どれもが100点満点の完璧な映画である
描かれているのは宇宙でもなくジャングルでもなく
古代ローマ帝国でも未来でもない
主人公は現代社会の1サラリーマン
日常中の日常風景、よくある痴話話である

【日常に神が宿る】
特にセリフは世間話に近く、スピードも早いので
字幕が追い付けないほどだ
その何気ない「普通の」会話が絶妙に重なり
ストーリーにどんどん深みを増していく様は
まるでバッハのフーガのようであり
「パルプ・フィクション」のようでもある
ヒロインを一般家庭で治療するシーンなど
この映画をリスペクトしてるに違いない

【ジャック・レモン】
セリフだけではない
流れるような手振りやしぐさなど
細かい演技に見られる日常性は
神がかりといっていいほどだ
これに表情や発声の抑揚
さらにコミカルな要素などを
一から創作したのだと思えば
この俳優の凄さには舌を巻く
本物の俳優である
ちなみに冒頭での独り夕食のシーンでは
「傷だらけの天使」のショーケンを思い出した
絶対影響を受けていると思う

【シャーリー・マクレーン】
2013年の映画LIFE(The Secret Life of Walter Mitty)で
80歳を目前にしてのその女子力に驚いたものだ
25歳時のこの映画では
登場シーンからオーラの違いを見せつけるが
圧巻はクライマックスでのあの笑顔である
いや、言い間違えた
あの笑顔こそがこの映画のクライマックスである
懸命に駆ける美少女の笑顔にかなうものなし

【皆まで言わない】
日常会話をまくし立てるような映画だが
肝心なことはいちいち言わない
男と女のことについては
暗黙の了解なのがいい
その共通認識の上に立って
お互いがお互いの立場で瞬時に行動する
主人公の場合、お人が良すぎて
さらに誤解を招き窮地に立つのだが
相手を思うからこそのその行動に
ヒロインだけでなく、観てる観客も
心を動かされるのである
こういうのを「粋」っていうんだろう

【ラストシーン】
それでも男は、好きな人には言わずにはいられない
それを女は軽くたしなめるのである
わかってるからこそ、でしょ?と
20150121apartment.jpg
平凡でいまいち盛り上がりに欠けるように見えて
含蓄に富んだ最高のラストシーンである

【たったひと言】
主人公とヒロインの心情や行動も
絶妙に時間をずらして折り重なって行く
その手際がまた実に見事だ
しかし、私にとってのこの映画の価値を
決定づけたのは、ひと言の、このセリフ

  That's the way it crumbles, cookie-wise
  (That's the way the cookie crumbles)

の、日本語訳である

  世の中なんて、そんなもの

みたいな感じではなくて

   成り行きだからね

とずばっと訳したのが
あまりにも凄すぎて唸ってしまう
この言葉が登場するたび
しみしみする私なのである
 





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